吾妻ひでおが亡くなった。
ファンだった。
同じ道産子だから、と言うわけではない。
子供の頃遊びに行った友達の家ではじめて読んだけれど(自分で漫画を買う習慣が無かった)、そんなに良い印象は無かったと思う。悪名高き(?)「二人と五人」だったと思う。絵柄は嫌いではなかった。が、白目のキャラが出てきたり、当時、子供の頃、裸足の足の裏とか、靴下の破れた穴から親指が出ると言う表現に生理的に嫌悪感を覚えた。それと、片目は点、もう片目は大きな白目に囲われている、と言うあの非シントメリーな自画像を見ては「何かの間違いじゃなかろうか」と何度も何度も見返した記憶がある。
(アレはしかし、やっぱり天才の賜物だよね。コロンブスの卵かもしれないけれど自画像見たいのちょちょっと何本かの線で描く時に、簡単に完璧に自分のそれを差別化・ブランド化出来る。)

「この人はちょっと違う」と思ったのはやはり、高校生の頃、偶然に出会った『不条理日記』。
高校生ぐらいになればさすがに漫画家のみなさんもただ、根っからそう言う事が好きで少年少女を楽しませるために綿菓子みたいな話をシーコラシーコラとめどなく生産しているわけではなく、少なくとも何人かは自分の思想だとか理想だとか訴え、伝えたいたい事もあるのだろうな、と分かってきて。それどころかそう言う作品のみが載っているエンタメ度ゼロみたいな雑誌もあって。
『失踪日記』中のエピソードによれば好きなSFを思いっきりやっちゃって下さいとか言われて逆にプレッシャーに苦しみ「どうとでもなれ」と描いたらアシスタントに「こんなもの描いて良いんですか?」と突っ込まれる(笑)。いやあ、突っ込まれる。このエピソードだけで十分凄い。確かに殆ど全部元ネタありきのパロディなので、それを知らない人は置いてけぼりにされてしまうけれど、かと言って自分勝手な自己満足の誰も聞かない自己主張を繰り広げている、と言うわけでも無い。

吾妻ひでおが「失踪日記」によって再ブレイクなんて表現が安っぽく繰り返されるのを見かけた。本人も当然ながら不本意だった様な事はそこここで見かけた。
本も売れ、賞も貰い、仕事の話も来るようになったけれど、「失踪日記」自体はイレギュラーな話。昔、趙治勲と言う第一線のプロが交通事故にあって話題になった事があったけれど、それこそ、趙治勲がいつまでたっても事故にあった囲碁棋士と語られる様な事ではないかと思う。

吾妻ひでおを語るのに一番的確な事を言っていたのはやはりとり みきの文章ではないかと思う。確か奇想天外か何かで吾妻の特集が組まれた時に寄せられた文章で、喫茶店で一度読んだだけなので不確かなのだけれど、とり みきはかなり吾妻的なギャグに傾倒していてデビューしてからそう言う方向性でやろうとしたら編集さんから「ああいう吾妻さんみたいなのは反則技なのでなるべくやらないでください」とか言われたと言う。
いやあ、まさに。パロディと言うのを漫画で始めたのも吾妻だと言うし、「ブランコ君」だか「トラウマが行く」だか覚えていないけれど突然絵日記が始まったと思ったら中身は全然出鱈目、絵と文章が全然あっていない。本人が「失踪日記」の中で『吹っ切れた』と言っていた「やけくそ天使」。偶々アンチの人が「どこが面白いんだ」とネットにあげていた某エピソードでは漫画の中に別な漫画が始まる。しかも元の漫画はそれはそれで欄外できちんと進行していると言う。あるインタビューでは吾妻はこの「やけくそ天使」の主人公の女性を「とにかく自由な人間」と設定した、と言う事で、自分の欲望に忠実に生きるこの女性はその為なら盗み、強盗何でもする。どころかワトソン役の自分の弟の童貞を隙あらば狙っている、と言うとんでもなさである。

結局彼の漫画、ギャグの魅力と言うのはその自由さなのだろうと思う。
漫画とか、ギャグ漫画なんてものは何でもそう、と言われるかもしれないけれど。映画「蒲田行進曲」終盤で役者同志の権力争いに煮詰まってにっちもさっちも行かなくなった時にちゃぶ台をひっくり返すようにあっけらかんと「でも、これタダのそういうお話ですから」とぶちまけて見せる。(それ自体も劇中劇なのだけれど)そんな突き抜けた明るさ、突拍子の無さに吾妻の漫画は非常に近いものがあると思うし、それは何か、と言うとやはり「自由」と言う言葉に集約されるのではないかと思う。

ネタばれになってしまうが(まさかこの駄文を読んで吾妻の漫画に興味を持って読み始める人もまあいないと思うので)、全部の作品を網羅したわけではないけれど、一番の傑作ギャグは先に述べた「やけくそ天使」に出てくる主人公の
「悪い事をして何が悪い!」
ではないかと。いやあ人生観変わりました。








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